大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(う)1898号 判決

被告人 渡辺清正 外

〔抄 録〕

次に趣意第一点及び第二点を通じて所論のうち脅迫罪の成立についての主張についていえば、そもそも、脅迫罪を構成するには、いやしくも他人を畏怖せしめる意思をもつて、その人の生命、身体、自由、名誉又は財産に対して害悪を加うべきことを相手方に知らしめる手段を施こし、相手方がこれによつて害悪を被るべきことを知つた事実あるを以て足りるのであつて、その害悪の告知について、他に目的があつても脅迫罪の成立を妨げるものでなく、又その害悪の内容が具体的に表示せられ、又はその害悪が通告者の支配下に行はれることを明示せられることを要するものではなく、さらに又その害悪が直接相手方に通告されることをも要するものではないと解すべきである。本件についてこれを見るに、原判示のがり版刷にしたビラ(原判決挙示の押収物件のビラ)の記載文言を検討するに右文書はまさに右被害者に対して、同人が反省しない限り同人の生命、身体、財産に対して危害を加るべき旨を告知する文意であることは明白である。しかも被告人は原判示のごとく当時日本共産党の細胞員、又はブロツク指導員であつたものと認められるから、右文書に盛られた害悪は被告人等の支配の下に行はれ得ないこと、又は全く関係のないものということはできない。そして右文書が単なる将来の出来事の予見又は警告ではなく、さらに単純なる政党の見解又は選挙宣伝のビラと目すべきでないことは論をまたない。さらに原判示ビラの頒布行為に関する所論については、右ビラを直接被害者本人に交付し、又は同人方に配付しなくても、原判示のごとく人家、群衆及び通行人多数に頒布するにおいては、その頒布の場所が被害者の選挙事務所から程遠い地区といつても同じく調布町内であつて、選挙戦たけなわな投票日の前夜のことでもあるから、社会通念上当然その文書がすみやかに被害者本人の手に入り目に触れることを予定したものと認むべきであつて、害悪告知の手段方法として何等欠けるところはないのみならず、現に右文書が被害者の手に入り同人を畏怖せしめたことも証拠上明白であつて、脅迫罪の既遂となることは疑を容れる余地はない。しかして右脅迫即ち本件ビラの頒布行為は被告人等の共謀に基いて、数人共同してなされたものと判示した原判決の認定にして誤なき以上、被告人等の原判示所為につき原判示の各法条を適用したのは、まことに正当であつて所論のごとく法律の解釈を誤つた違法は毫も存しない。要するに、所論はいずれも脅迫罪の構成について独自の見解に基いて原判決を非難するに帰着するものであつて採用できない。かくして論旨はすべて理由がない。

註 原判決挙示の押収物件のビラには次の文言が記載されている。

天誅遂に下る

天人共にゆるさざる売国奴安沢に町民の怒り爆発。

七月十一日夕刻、おさえにおさえた町民の怒りは爆発した!

過去四年間、横暴の限りをつくし町民の苦しみの上に私腹を肥した。現町長安沢秀雄の自宅は英雄的な町民により襲撃された

アメリカ帝国主義の忠実な下僕となりアジア侵略のための、三多摩軍事基地強化に協力して、軍用道路、パンパンアパート、米軍住宅用ガス、水道の建設を計画し調布町を基地の衛星都市たらしめつつある売国奴安沢に一大鉄槌は下された。

これは安沢をとりまく売国奴共へ憂国的町民が叩きつけた闘いの宣言である。彼等売国奴共が、自己の行為を反省して、これをくいあらためぬ限り追撃の手は更にのびるであろう。

調布を愛し、平和を求め、独立を望んだ町民の団結は、売国吉田政府につながる。安沢一味を必ずや追放する力となるであろう。

調布金町の皆さん。

売国安沢町政を打ち倒すために更に強い団結を固めようではありませんか!

一、調布飛行場を農民にかえせ!

一、軍用道路建設反対、土地取上、立退き絶対反対!

一、重機を始めとする一切の平和産業を守れ中日貿易を即時再開しろ!

一、戦争のための税金を払うな!

一、農民、中小企業、中小商人に長期低利の金融をしろ!

一、国民を馬鹿し、主婦を泣かせる京王閣競輪場を廃止しろ!

一、徴兵、徴税、スパイ政治のための住民登録反対!

一、破防法テッパイ、改悪労働三法粉砕!

一、地方自治を守れ、町政を売国安井都政の下請けにするな!

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!